フランキンセンスとミルラの恵み深い樹木を包み込む険しくも美しいサナーグ地方
ソマリランドのフランキンセンスは、北東部のサナーグ地方に自生しています。首都ハルゲイサから車でがたがた道を行くこと2日。ゴリス山脈、別名カルマドー山脈がある人里離れた地域です。固有植物が多く生物多様性が豊かで、ソマリランドの多くが乾燥地帯であるのに対し、カルマドーは比較的他の地域より雨量があります。またアデン湾が近いため、ボスウェリアの葉が霧を取り込むことができるという恩恵もあります。そのため、カルマドー山脈のフランキンセンス自生地域は、眼下に広がる乾燥した不毛の谷に比べ、緑豊かだと言えます。
フランキンセンス収穫地域の景色を見てみたい方はぜひご一緒に!首都ハルゲイサの日の出とともに出発し、ガソリンスタンドやサービスエリアなどは一切無い道なき道を向かうこと二日。これだけ人里離れた地域から直接調達ができるのは、まさに現地の事情が分かっている採取者、パートナーの皆さんのおかげです。フランキンセンスの雄大な収穫地域への旅にようこそ。
ソマリ人の間では、ボスウェリア樹木の所有権は明確です。父方で代々受け継がれるのです。みな自分たち家族がどの木を所有しているか正確に把握し、自分たちの樹木からしか採取しません。この相続システムでは、家族以外の人と樹木が売買されることはなく、代々受け継がれる家族の富が確実に守られているとも言えます。この習慣がなければ、フランキンセンス市場目的でアロマセラピー企業などに買収されているはずです。ソマリ人は、フランキンセンスの木に大きな畏敬の念を寄せ、大切に思っています。全土で調理用燃料を目的とした森林伐採が問題になっていますが、ソマリ文化にとって神聖なフランキンセンスの木が伐採の危機にさらされることはありません。
ボスウェリアの樹木には根っこがなく、石灰岩に生えているのが特徴です。木のもとが岩に張り付いているように見えるのは、なかなかの驚きです。花が咲いた後に種が落ち、石灰岩の隙間から小さな緑の苗木として顔を出し新しい木が育っていくのです。植樹ではない、最も自然な再生サイクルと言えます。長い歴史の中で多くの人が世界各地で植樹し繁殖を試みましたが、ほとんど成功していません。
ソマリランドには、ボスウェリア・カルテリとボスウェリア・フレレアナ、二種類のフランキンセンスが自生しています。カルテリの採取時期は一般的に雨季が終わった後、6月から9月ですが、雨季が終わるまで採取を待つためその年の雨量により前後します。フレレアナは12月から3月の冬季採取です。土地オーナーと同じ氏族の人しか採取することはできません。人里離れた険しい岩稜地帯のため、採取期には山に入り、洞穴で生活しながら樹脂を採取します。
まず採取者は、マンガフと呼ばれるのみのような道具を使い、成熟したフランキンセンス樹木の樹皮に切り込みを入れます。木を傷つけることなく丁寧にこの作業ができるのは、代々伝わる知恵のおかげです。この切り口から樹液が染み出し、涙のようなかたちになり、幹に滴り落ち、固まるのです。この樹液は、木が病気や感染から自分を守る防衛反応で、傷が治るまでのバンドエイド機能とも言えます。数週間後、採取者は樹木に戻り、その固まった樹脂を採取します。そして採取した樹脂は、樹脂袋に入れて日光を避けるため生活している洞窟で保管します。採取時期が終わると下山と同時に樹脂袋を村に運び、混ざり込んだ樹皮を取り除き、大きさによって仕分けに入ります。
古代エジプト時代より何千年もの間素晴らしい香りを与えてくれる貴重な樹脂、大変な採取、そして私たちがそれを手にすることができるありがたさ。私たちは、そのすべてにおもいを寄せ感謝することが大切だと考えています。樹脂の採取は、肉体的に大変なのはもちろん、危険を伴う作業でもあります。毎年、険しい崖の上にそびえ立つ木に登って樹脂を採取している間に怪我をしたり、時には重体になってしまう採取者もいます。私たちは、フェアトレード対価のお支払いや太陽光発電の井戸設置などを通して採取者に敬意を表しています。継続的な協力とコミュニケーションを通し、お互いに尊敬を持った顔の見える関係を築いています。
ソマリランドでは、どの家庭にもフランキンセンスの樹脂があり、香り、空気浄化、蚊除けのために毎日焚いています。ボスウェリア・フレレアナ樹脂は天然のチューインガムとして愛用されています。カルテリに比べると粘性が低いため噛みやすく、歯と歯ぐきを健康に保ち、消化を促進してくれるのです。
ボスウェルネス創立者マハディは、子どもの頃学校でコーランの詩を書くためのインクとしてミルラ樹脂を使っていたと言います。ペースト状になるまで水に浸し、木炭と混ぜてインクを作るのです。またソマリアとソマリランドでは、ミルラは胃痛、口内炎、傷、炎症性疾患の治療にも使われています。
ボスウェルネス創立者マハディと採取者、ボスウェリア・カルテリ樹木のもとで
フランキンセンスの恵みに包まれたラガス村
ボスウェリア・フレレアナ「樹木からボトルへ」
収穫地域をドローンで撮影してみました