バーモント州メディア「Seven Days」掲載(2020年12月16日)記事
https://www.sevendaysvt.com/vermont/vermont-based-boswellness-uplifts-african-communities-that-supply-frankincense-and-myrrh/Content?oid=31896724
下記、日本語訳
フランキンセンスとミルラを供給するボスウェルネスがアフリカコミュニティを活性化
【ケン・ピカード】
ホリデーシーズンズ(アメリカでは一般的に11月末のサンクスギビングデーからクリスマス/ハヌカ/クワンザやお正月までを指します)に、最もふさわしい伝統的なギフトはフランキンセンスとミルラでしょう。バーモント州に、フランキンセンスとミルラのエッセンシャルオイルを蒸留し、アフリカのパートナーたちに食糧、安全な飲料水、医療サービスや安定した収入というギフトでお返しするビジネスがあります。
ボスウェルネスは、オーガニック認証を持ち、フェアトレードで持続可能なフランキンセンスとミルラの商品を蒸留する、世界でも数少ないサプライヤーです。2005年にマハディ・イブラヒム氏が創立したボスウェルネスは、1991年にソマリアから独立を宣言した自治区ソマリランドから樹脂を調達しており、ビジネスを通して現地の採取者を支援することがミッションです。
イブラヒム氏(52歳)は、ソマリア内戦から逃れるため、1988年にソマリランドからモントリオールに難民としてやってきました。その後アメリカに移住します。現在は、妻のジェイミー・ガービー氏やビジネスパートナーのケイシー・ライオン氏と一緒に会社を経営しています。ジェイミーとケイシーは同時期にバーモント大学に通った仲間です。
ボスウェルネスは卸売業が中心であり、ほとんどの顧客はリテール商品の製造者ですが、消費者に直接エッセンシャルオイルやハイドロソル(芳香蒸留水)を販売することもあります。
フランキンセンスとミルラビジネスの創立者の名前がイブラヒム。偶然とは思えません。イブラヒムのアラビア語はアバラハム、世界三大宗教を信仰する「啓典の民」の始祖なのです。
フランキンセンスとミルラは、キリスト教ではイエス・キリスト誕生時に東方の三博士がベツレヘムへ届けた3つの贈り物の内の2つです。バルサムのようにスパイシーで香り豊かなフランキンセンスとミルラは、カトリック教の神父がミサの間にお香として燃やしたり、米国聖公会や東方正教会の礼拝の際にお香として使用されています。フランキンセンスの白い煙は、ローマ教皇庁が新ローマ教皇を発表する際にも使われます。
フランキンセンスとミルラは中東やアフリカの角(アフリカ大陸北東部にあるサイの角に似た地域)を原産とする樹木から収穫される樹脂です。そしてその歴史は、さまざまな文化を起源とし何千年もさかのぼります。
ユダヤ教では、エルサレム神殿で祭司や王が塗油していたことがトーラーやタルマードなどの書物に記録されています。仏教では、伝統的に瞑想や祈りの間にお香として樹脂が炊かれていました。イスラム教では、預言者モハメッドが信奉者にミルラの煙で家を清めるよう指示していました。
それは、今日にも引き継がれています。イブラヒム氏が蒸留所ツアーをしながら話してくれたように、ソマリランドにいる彼の友人や家族は日常的にフランキンセンスやミルラの樹脂を家で燃やし使用しているのです。
「母は毎日お祈りをしながら燃やしています」とイブラヒム氏は言います。「燃やした時に出る煙の殺菌効果は空気中のバクテリア除去に良いし、蚊よけにも効果的です」
中東やアフリカでは、水を飲む前にフランキンセンスとミルラの樹脂を浸す習慣があります。フランキンセンスとミルラは何世紀にもわたり関節炎やぜんそく、不安な気持ちを和らげるために使われており、抗菌性と抗炎性の性質を持つことが科学的な研究によって証明されています。ガービー氏によると、古代エジプトではミイラの肌を保つためにフランキンセンスが使われていた歴史があり、現代ではシワやにきびケアを目的としてスキンケア商品に使われています。
フランキンセンスとミルラの樹脂は、大航海時代以降の新世界でも長いこと使用されています。ミルラはアラビア語で「苦い」という意味を持ちおいしいとは言えない風味ですが、ホメオパシー療法に効果的です。オレゴン州南西部の農場で育ったライオン氏(44歳)は、幼い頃家族がミルラを使用していたことを覚えており、次のように言っています。
「子どもたちの体調が悪くなると母は薬草の手引書を見て、ヒドラスチスとミルラをよく使っていました。マハディ、ジェイミーとこのビジネスを始めた頃、ミルラの香りでよく子ども時代を思い出していました。」
ボスウェルネスを立ち上げる前、3人にエッセンシャルオイル蒸留経験はありませんでした。2002年にイブラヒム氏がソマリランドに帰省した際、父親がひどい交通事故に巻き込まれてしまいます。父の死を受け、バーモントに戻ったイブラヒム氏はある夜、フランキンセンスの煙に包まれた父親に故郷の人々をサポートするために何かして欲しいとお願いされる夢を見ました。
両親がゼネラル・ストア(万屋)を経営していた影響もあり、イブラヒム氏は自分のビジネスを持ちたいと思っていました。そこで、ソマリランドのサナーグ地域で何世紀にもわたって収穫されてきたフランキンセンスを市場に出す方法を模索し始めました。
数えきれない時間をかけてリサーチを重ね、イブラヒム氏はあるコンセプトにたどり着きます。それは、バーモント名物メープルシロップの蒸留機械を活用し、似たようなプロセスでフランキンセンスを蒸留すること。ライオン氏によると、メープルシロップ蒸留との主な違いは、ケトル(蒸留器)に溜まるシロップを集めるのではなく、フランキンセンス蒸留は煮沸で液化するオイルを取り出すことです。
イブラヒム氏は「ムーンシャイン(密造酒)を作るみたいにね」と言います。
コーヒー沸かし器のようなイブラヒム氏の初期の試作品蒸留器は、今もボスウェルネス蒸留所のロビーに置いてあります。今では商業用サイズのステンレス製蒸留器を使用し、一日に約10キロのオイルを製造しています。そう聞くと多くないと感じるかもしれませんが、イブラヒム氏によれば、完成品(オイル)の重量は、原料である樹脂重量の4~5%相当です。
倉庫の壁3面に置いてあるのは、何百キロものフランキンセンスとミルラ樹脂。コーヒー豆のように大きなずだ袋に入ってソマリランドから届きます。フランキンセンスは、まるでブラウンシュガーのジュエリーサイズの固まりのよう。ミルラもまた結晶質で粘り気がありますが、フランキンセンスより大きく濃い色の固まりで、豆板のようです。ガービー氏によると、樹脂好きで、飾りかスピリチュアル目的で、ミルラの大きなクリスタルを晶洞石のように家に置いている人もいます。
イブラヒム氏は、ソマリランドの収穫行程はメープルシロップと似ていると言います。フランキンセンスは、(ビジネス名にもなっている)ボスウェリア属の樹木から採れます。幹に傷を付けると、修復するためににじみ出る液体が固くなり、金色の塊になるのです。ミルラ樹脂は切り込みや叩くこと無しに自然と幹から出てきます。(フランキンセンスオイルは二種類の樹脂から蒸留していますが)ミルラオイルは一種類の樹脂で蒸留しています。
樹脂がアフリカから出荷される経路はまるで聖書のようです。イブラヒム氏によると、フランキンセンスとミルラの木は丈夫で、乾燥し岩石が多い山地で石灰岩の断崖に生えており、特定の氏族や家族のみがアクセスできる独占権を持っています。イブラヒム氏の兄であるイドリスがソマリランドで調達担当をしており、各村を訪れて採取者と関係を築いています。採取者たちは、樹脂を一つ一つ手で採取し、かついで徒歩で山を下り、バルベラ港まで運びます。そしてコンテナ船で大西洋を横断しカナダ・モントリオール港に到着した樹脂は、トラックに載せられバーモント州の蒸留所に向けて南下します。輸送全行程には、数カ月かかります。
「採取者にしっかりとした収入が入るように
サポートしなければならないと思いました」
マハディ・イスマイル・イブラヒム
アフリカのほとんどがそうであるように、元々イギリスの保護領であったソマリランドの歴史は、何世紀もヨーロッパの占領と搾取に関係しており、フランキンセンスとミルラの使用も例外ではありません。ボスウェルネス創立時、イブラヒム氏は製造業者としてこれまでの慣例をくつがえすことを決めます。それは、原材料である樹脂に意図的に相場より高い価格を支払うことです。
「以前の樹脂価格はとんでもなく安かったのです。私たちはそんなやり方ではなく、採取者にしっかりとした収入が入るようにサポートしなければならないと思いました。」とイブラヒム氏は言います。そして、ボスウェルネスが採取者に対して樹脂や労働の対価に見合った支払いをするようになってからは、ヨーロッパの競争相手もボスウェルネス基準の支払いか撤退せざるを得なくなったのです。
イブラヒム氏と兄は、各村の長老に生活基準を向上させるために何が必要か聞きました。きれいな水と食糧へのアクセス、基本的な医療サービス、より良い教育の機会、と答えはシンプルなものでした。ライオン氏によると、村の子どもたちは家の仕事の手伝いが終わるまで学校に行くことができません。特に女の子は、家族に飲み水を見つけることが仕事です。近くに井戸がない場合、汲んだ水を背中に乗せてかなりの距離歩いて運ぶのは一日仕事です。
こういったニーズをサポートするため、ボスウェルネスは売上げの20パーセントをソマリランド地域社会の開発に貢献しています。長期にわたる水不足のため、継続的に村や学校での井戸掘削、ソーラーポンプ購入や貯水タンク建設を行っています。
ボスウェルネスはまた、ソマリランド拠点の研究機関「Centre for Frankincense, Environmental, and Social Studies (CFESS)」に資金提供をしています。CFESSは、ソマリランドのフランキンセンス産業の持続可能性保護を目的に活動しています。
イブラヒム氏は、アメリカで本物のオーガニックフランキンセンスとミルラオイルを製造しているのはボスウェルネスだけだと考えています。こういったことを謳う他社がないと言っているわけではありません。
ガービー氏は言います。「市場は大きくなりました。自分やおばあちゃんが使うという人もたくさんいます。でも残念ながら低品質のオイルがたくさん出回っているのです。」
「創立時から大切にしているのは、真のフランキンセンスとミルラがどんなものであるかを多くの人に知ってもらうことです」
ジェイミー・ガービー
ガービー氏によると、創立時からのボスウェルネスの大きな挑戦の一つは顧客教育です。そのなかで最も重要なテーマは、どうしてボスウェルネスのフランキンセンスとミルラのプレミアム価格に意味があるのかということです。市場には、似たような見せかけ商品を作っている製造者もいます。ほんのわずかなフランキンセンスオイルを松から作ったよく似た製品に混ぜ、「ピュア」「ナチュラル」という言葉を使って、本物を製造するより低価格で販売しているのです。
消費者への直接販売は会社売上げの1%以下ですが、ガービー氏は言います。「創立時から大切にしているのは、真のフランキンセンスとミルラがどんなものであるかを多くの人に知ってもらうこと、そしてそのために本物の製造で可能な限りリーズナブルな価格で提供することです。」
イブラヒム氏とライオン氏は言います。「フランキンセンスとミルラの香りが広がる職場環境で仕事ができるって素晴らしい。」さらにライオン氏は言います。「何が素晴らしいって?ただ仕事に行き、タイムカードを押して帰宅するのではなく、人や社会にとって良いことをしてるってこと。」
このライオン氏の言葉こそが、ホリデーシーズンの時期に最もふさわしいメッセージといえるでしょう。